新型コロナウイルスに関する法律問題Q&A

中小企業向けに新型コロナウイルスに関する法律問題等について、Q&A形式でまとめましたので、公開していきます。
※本Q&Aでの回答情報は各種情報をもとに当事務所の判断において掲載しているものであり、個別の状況によって回答とは異なる場合もあることにご留意ください(最終更新日:令和3年3月13日)

Q.特措法が改正されたとのことですが、どのように改正されたのでしょうか?

A.改正新型インフルエンザ等対策特別措置法 (以下「特措法」といいます。)は令和3年2月3 日に成立し、同月 13 日から施行されています。主な改正点は、以下のとおりです。
①緊急事態宣言下において、都道府県知事は施設の使用制限の「要請」に加えて、応じない事業者には、「命令」「立入検査」ができるようになる。
②「まん延防止等重点措置」対象地域の都道府県の知事は事業者に対し営業時間の変更などを「要請」し、応じない場合は「命令」「立入検査」ができるようになる。
③「命令」「立入検査」に応じない事業者に対しては、過料(行政罰)が課される。
【緊急事態宣言下 】 命令違反: 30 万円以下 立入検査拒否: 20 万円以下
【重点措置 】 命令違反: 20 万円以下 立入検査拒否: 20 万円以下。

Q.コロナ禍において、従業員を出社させる場合の注意点を教えてください。

A.安全配慮義務の観点から、マスクの着用を義務付ける、職場にアルコール消毒液を設置する、「3密」を避けるために定期的に換気をするなどの対策が必要になります。

  • 【安全配慮義務】
    企業は従業員に対する安全配慮義務(労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるように必要な配慮をする義務)を負っています。
     安全配慮義務の具体的な内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるとされており(最小判昭和59410日)、個々の業種、企業ごとに考える必要があります。
     今回の新型コロナウイルスへの対応の場面では、新型コロナウイルスの特性(①潜伏期間が114日であること、②飛沫感染、接触感染以外にも閉鎖空間において近距離で多くの人と会話をする等の一定の環境下であれば咳やくしゃみ等の症状がなくても、感染を拡大するリスクがあること、③り患しても一定数は無症状であり、その無症状のり患者から感染が拡大する事例が報告されていること、④その他未だ不明な点が多々存在すること)を踏まえ、感染リスクを下げるための適切な対応が必要となります。例えば、就業させる際にはマスクを着用させる、手指等の消毒を徹底させるといった対応を検討する必要があります。

  • 【一般的な事業所(オフィス)における対応】
    業務、職務環境等により異なりますが、一般的には、以下のような対策を講ずべきと考えます。
    ・従業員にマスクを配布し、着用を義務付ける・職場にアルコール消毒液を設置する
    ・「3密」を避けるため定期的に換気する
    ・職場での社会的距離(ソーシャルディスタンス)を徹底する
    ・せきエチケットや手洗い等を徹底するよう周知する
Q.新型コロナウイルス感染拡大を受けて従業員全員にマスクの着用を義務付けようと思うのですが、可能でしょうか?

A.指揮命令の一環としてマスク着用を義務付けることは可能ですが、その場合には、マスクの供給は企業の負担で行うべきです。

  • 【マスクを着用するという指揮命令の可否
     企業が従業員に対して、指揮命令権を有していることは、前QAでも述べたとおりです。
     この指揮命令権は、業務に必要かつ相当な範囲内のもののみ許容されると解されています。この点、厚生労働省の新型コロナウイルスに関するQ&A(一般のの方向け)の中で、新型コロナ感染症の予防策として、マスクの着用が挙げられていることからすれば、顧客、あるいは、他の従業員に対する感染拡大防止のため、業務命令としてマスクを着用することは、業務に必要かつ相当な範囲のものと考えられます。 

  • 【マスクの供給は誰がすべきか?
     企業が業務命令としてマスク着用を義務付ける場合、マスクの調達は業務上必要なものとなりますし、安全配慮義務を果たすという意味でも、マスクは企業側で用意すべきです。この場合、企業でマスクを用意する、従業員が個人で購入したマスクを業務で着用する場合には、マスクの費用相当額を企業が補助する等の対応をご検討いただくことも必要になるかと思います。

Q.従業員に対して、検温やPCR検査を義務付けることはできますか?

A.検温やPCR 検査は、身体への侵襲を伴うものではありませんから、安全配慮義務の観点からすれば、義務付けは可能と考えられます。
 ただし、会社が従業員にPCR検査を義務付ける場合には、会社が検査費用を負担すべきと考えます。

Q.従業員に対して、ワクチン接種を義務付けることはできますか?

A.近く一般人にもワクチン接種が開始されるようです。ワクチン接種は、検温やPCR 検査とは異なり、身体への侵襲を伴うものであって、海外では副反応の報告もなされています(本日時点で、国内でも複数件の副反応が報告されています)。会社から従業員に対して、ワクチン接種の要請を行うことは許容されると考えますが、義務付けは不可能であり、ワクチン接種をしない従業員に対して、懲戒処分等の不利益な取扱いを行うこともできません。

Q.緊急事態宣言や都道府県知事の外出自粛要請があった場合、就業時間外や休日に、国内外の旅行や飲み会・カラオケを禁じる業務命令は可能でしょうか?
また、それに違反した者を懲戒処分に付することは可能でしょうか?

A.私生活上の行動は自由であるのが原則ですが、従業員は、労働契約の付随義務として、会社の業務運営や社会的評価に関わる事項について、業務命令に服する義務があると考えられます。
国内外の旅行や飲み会・カラオケなどが新型コロナウイルス感染症にり患する可能性が高いことは周知の事実であり、安全配慮義務の観点はもちろんのこと、企業の社会的評価の維持の見地からも、これらの私生活の行動を禁じる業務命令も許されると考えます。
ただし、上記の行動をとった従業員が実際に新型コロナウイルスに感染し、企業の業務遂行に支障が生じたなどの事情がない限り、懲戒処分に付するのは行きすぎでしょう。

Q.従業員に新型コロナウイルスに感染した者が出てしまいました。どのように対応すればよいでしょうか?

A.感染が確認された従業員は休業させることはもちろんのこと、感染拡大防止の観点から、濃厚接触者の有無、社内消毒などの対応が必要になります。

  • 【感染が判明した従業員への対応
     新型コロナウイルスに感染した従業員は、都道府県知事の入院勧告を受けたり、一定期間の就業制限を受けることがあります。このような場合に該当せずとも、感染拡大防止の観点から、当該従業員は休業させるべきです。
     そして、厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業方向け)」4-問2によれば、新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はないとされていますので、この場合、休業手当を支払う必要はありません。
     なお、従業員が被用者保険に加入しており、要件を満たせば、各保険者から傷病手当金が支給されます(具体的には、療養のために労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、直近12カ月の平均の標準報酬日額の3分の2について、傷病手当金により補償されます。)。 

  • 【感染拡大防止のための措置
     
    社内で新型コロナウイルスに感染した従業員が出た場合の具体的な対応について、個々の企業が自社に併せた形で策定いただく必要があります。
    既に策定されている企業の方も多いと思いますが、まだ策定されていない企業の方向けに参考になるものとして京都府が策定した「府内事業所の従業員に新型コロナウイルス感染者・濃厚接触者が発生した際の対応及び事業継続に関するマニュアル(雛形)」を一部抜粋・加筆してご紹介いたします。

    1 患者発生時の患者、濃厚接触者への対応
     (1) 感染者発生の把握、報告及び周知
        感染者が確認された場合には、事業所の所在地を所管する保健所に報告し、対応について指導を受ける。また、従業員に対しては事業所内で感染者が確認されたことを周知するとともに、感染予防策を改めて周知徹底する。
     ※この場合の周知については個人情報に対する配慮が必要です(詳細は後記QA「従業員が新型コロナウイルスに感染症に感染した場合、従業員の同居家族が感染した場合などに報告を求めることは可能でしょうか?」も参照下さい。)
     (2)  濃厚接触者の確定及び対応
      ア  保健所の調査に協力し、感染拡大防止のため、速やかに濃厚接触者と見込まれる者を自宅に待機させる。
     イ 保健所が濃厚接触者と確定した従業員に対し、必要に応じ PCR 検査(行政検査)の受検あるいは感染者との最終接触から 14 日間の健康観察を行う必要があることから、保健所の指示に従う。
    ウ 濃厚接触者と確定された従業員に対し、発熱又は呼吸器症状(軽症の場合を含む。)を呈した場合には、保健所に連絡して PCR 検査(行政検査)を受検するよう促し、速やかにその 結果を報告させる。

    2 施設設備等の消毒
     (1) 保健所が必要と判断した場合には、感染者が勤務した区域(執務室、製造加工施設、倉庫、売場等)の消毒を行う。
    (2) 消毒は保健所の指示に従って実施することが望ましいが、緊急を要する場合には、感染者が 勤務した区域のうち、手指が頻回に接触する箇所(ドアノブ、スイッチ類、手すり等)を中心 に、アルコール(消毒用エタノール(70%))又は次亜塩素酸ナトリウム(0.05%以上)で拭き取り等を行う。
     食品等取扱い事業者については、製造、流通、調理、販売等の各段階で、食品取扱者の体調管 理やこまめな手洗い等の一般的な衛生管理が実施されていれば、感染者が発生した施設等は、 操業停止や食品廃棄などの対応をとる必要はありません。

    3 業務の継続
    (1)  重要業務の継続
    ア  感染者及び濃厚接触者の出勤停止の措置を講じることにより、通常の業務の継続が困難な 場合には、重要業務として優先的に継続させる製品・商品及びサービスや関連する業務を選定し、重要業務を継続するために必要となる人員、物的資源(マスク、手袋、消毒液等)等を把握する。
    イ  重要業務継続のため、在宅勤務体制・情報共有体制・人員融通体制を整備するとともに、 重要業務継続のための業務マニュアルを作成する。
    (2) その他必要なことは別途定める。

Q.従業員が新型コロナウイルス感染症にり患した場合、事実を公表すべきでしょうか。公表するとした場合、どのような情報を公表すべきでしょうか?

A.使用者は、労働者の安全に配慮する義務を負いますから、従業員が新型コロナウイルス感染症にり患したことが判明した場合には、保健所等に告知・連携を行い、感染経路や濃厚接触者の範囲を確認し、消毒作業などに協力すべき義務があると考えられます。
問題は、このような感染の事実を公表するかどうかです。悩ましいところであり、法律上、公表義務があるものではありませんが、感染拡大防止と関係者の懸念払しょくに資すると考えられる限りで、公表を検討すべきかと考えます。公表の際には、感染者個人が特定できないようできる限りの配慮を行う必要は生じます。
なお、その際、基本的には保健所と対応を協議しながら対処すべきことはもちろんです。

Q.従業員に、咳や発熱など新型コロナウイルス感染の疑いがある場合には、どのように対応したらよいでしょうか?

A.感染拡大防止の観点から、当該従業員は出社させず、自宅療養させることとしてください。その上で、症状が改善しなければ(特に4日以上、風邪の症状や37.5℃以上の発熱が続く場合)、帰国者・接触者相談センター(岡山の場合には、以下のリンク先から連絡先を調べることができます)に連絡するよう指示してください。

  ※新型コロナウイルス感染症に係る帰国者・接触者相談センター

  • 【従業員の自宅療養
     まず、従業員が、会社の病気休職の制度を利用したいと希望したり、有給休暇を利用したいと希望してきた場合には、その利用を認めるという対応で構いません。
     他方で、従業員に新型コロナウイルス感染の疑いがあるにも関わらず、従業員が出勤を希望した場合に、当該従業員に自宅待機命令を出すことができるかという点が問題となります。
     この場合、当該従業員の症状は、実際は単なる風邪かもしれませんが、症状が軽い場合であっても、「帰国者・接触者相談センター」への相談をする基準には「発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合」とあり、症状が軽い状態でも、新型コロナウイルス感染症にり患している可能性は否定できません。また、厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業方向け)」では、従業員に発熱などの風邪症状がある場合には、仕事を休ませ、外出を自粛するよう呼びかけられています。以上に加え、現在、新型コロナウイルス感染症の治療薬は開発されておらず、ひとたび、社内での新型コロナウイルス感染症が蔓延した場合には、事業の一時的な停止を余儀なくされる可能性もあることを踏まえると、感染拡大防止のための措置として、自宅待機命令を行うことは可能と考えます。
     また、自宅待機を命じることについて、場当たり的な対応とならないよう、具体的な自宅療養の基準(例えば、体温が37.5℃を超えている場合には自宅療養とする等)を検討しておくことも必要です。

  • 【賃金の支払いはどうなるのか?
     
    1 有給の病気休職制度がある場合、従業員が有給休暇の利用を希望した場合
     まず、会社に有給の病気休職制度がある場合や、従業員が有給休暇の取得を希望した場合には、それぞれの休職・休暇について定められた賃金を支払うという対応で構いません。

    2 会社が自宅待機を命じた場合(従業員は出勤を希望している)
     問題は、従業員は出勤を希望している場合にもかかわらず、会社が自宅待機を命じた場合の賃金の対応です。
    ⑴「帰国者・接触者相談センター」での相談結果が判明している段階 
     この点につき、厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業方向け)」によれば「帰国者・接触者相談センター」での相談結果を踏まえても、職務の継続が可能であると判断される場合に、当該従業員を休職させる場合には、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当するため、休業手当の支払いをする必要が発生するとされています。
     他方で、従業員が新型コロナウイルス感染症にり患していることが判明した場合には、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当しないため、休業手当の支払いをする必要はありません。この場合、被用者保険に加入されている従業員の方であれば、要件を満たせば、各保険者から傷病手当金が支給されます。

    ⑵ 「帰国者・接触者相談センター」での相談結果が判明していない場合
     問題は、「帰国者・接触者相談センター」での相談結果が判明していない場合です。
     この場合の対応については、業種・企業ごと、更には当該従業員の体調によっても判断が異なるものであり、一律に決められるものではありません。
     ただ、当事務所としては、この場合でも、休業手当を支給した上で、従業員の方に休業していただくことをお勧めします。この場合に、単純な欠勤として無給の取扱いとしてしまうと、従業員の方は無理をしてでも、出勤を試みようとする可能性がありますし、また、体調不良であるにもかかわらず、会社に体調不良の報告をしないということになりかねません。このような対応により、社内で感染が拡大した結果、一時的に事業所を閉鎖することになってしまう可能性もあります。したがって、従業員の方が安心して休めるよう、休業手当を支払った上で、自宅療養を指示すべきと考えます。

  • 【特別休暇の導入
    上記⑵のような場合に備え、従業員が安心して休めるよう、有給の特別休暇制度を創設するということも検討いただければと思います(厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業方向け)」4-問11)。
     今回の新型コロナウイルス感染症対策として、新たに特別休暇を設けた場合には、就業規則に特別休暇を規定したことにより負担した費用の一部を時間外労働等改善助成金(職場意識改善コース)により助成してもらうことも可能です。
     ※特別休暇の導入について注意すべき点は後記QA「新型コロナウイルスの対応のため、特別の休暇を設けようと考えているのですが、どのような点に注意をしたらよいでしょうか?」も参照下さい。

Q.新型コロナウイルス感染者との濃厚接触者となった従業員を、一定期間、自宅待機させた場合、賃金や休業手当はどうなりますか?

A.保健所は、国立感染研究所感染症疫学センターが定義する濃厚接触者と特定した者に対し、14日の健康観察期間中、体温その他の健康状態について観察・報告することや、感染拡大防止のための外出自粛協力要請をすることができるとされていますから(感染症法44条の3)、このような従業員に対する自宅待機命令には相応の合理性があります。ただ、他方で、濃厚接触者であるからといって、直ちに新型コロナウイルスに感染した蓋然性が高いとまではいえません。
したがって、悩ましいところではあるのですが、ご質問のような場合、使用者に故意・過失があるとまではいえず、賃金の支払義務は発生しませんが、不可抗力とまではいえないことから、休業手当は支払うべきものと考えます(ただし、テレワークが可能な場合は、この限りでありません。)。

Q.職場クラスターが発生し、役員・従業員の多くがPCR 検査で陽性となってしまいました。保健所の命令により操業不能となっていますが、この場合の賃金や休業手当はどうなりますか?

A.使用者には、民法536条2項の「責めに帰すべき事由」がないことはもちろん、労働基準法26条の「責めに帰すべき事由」もないと考えられますから、賃金や休業手当の支払義務はありません。
もっとも、傷病手当金の受給が可能な場合はあるでしょうし、職場での感染であれば、労災補償が受けられる可能性があります。

Q.従業員が新型コロナウイルスに感染した場合や従業員の同居家族が感染した場合に報告を求めることは可能でしょうか?

A.いずれの場合も、自己申告を求めることは可能と考えます。
 ただし、㋐申告をした従業員の個人情報の保護、㋑従業員の自宅待機命令をした場合の休業補償など、従業員が申告をしても問題がないと思えるような制度を検討する必要があります。

  • 【自己申告を求めることの可否
     企業は、従業員に対して安全配慮義務を負っており、その履行の観点から、職場での蔓延防止のため、必要かつ相当な措置をとることができると考えられます。
     新型コロナウイルスについては未だ未解明な点も多く、治療薬も開発されていないことから、職場での感染拡大予防の観点から、①従業員が新型コロナウイルス感染症に感染した場合には、会社に対して報告を求めることは可能と考えます。
     また、②従業員の同居家族が感染した場合についても、従業員は濃厚接触者に該当し、感染リスクが高いといえますので、その旨を報告させる必要が高いと考えます。
     ただし、自己申告を求める場合には、以下のような配慮が必要です。 

  • 【自己申告を求める場合に配慮すべき事項
    1 ㋐個人情報の保護
     新型コロナウイルスに感染したことや同居家族が新型コロナウイルスに感染したこと等の情報は、当該従業員ないし同居家族の個人情報(その中での特に配慮が必要とされる要配慮個人情報)に該当します。
     したがって、従業員からの報告を受けたとしても、従業員の同意なく、みだりに第三者(取引先など)に公表すべきではありません。また、社内の他の従業員に対しても、原則として本人の同意を得た上で、開示すべきと考えます(従業員間の共有は個人情報保護法上の「第三者への提供」には該当しないと考えられていますが、トラブル防止の観点から本人の同意を取得するよう努めるべきです)。

    2 ㋑休業補償
    ⑴ 従業員が新型コロナウイルスに感染した場合
     前記Q&Aのとおり、従業員が新型コロナウイルス感染症にり患していることが判明した場合には、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当しないため、休業手当の支払いをする必要はありません。この場合、被用者保険に加入されている従業員の方であれば、要件を満たせば、各保険者から傷病手当金が支給されます。

    ⑵ 従業員の同居家族が新型コロナウイルスに感染した場合
     この場合、従業員の体調に問題なければ、従業員の職務の継続が可能と考えられますので、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当の支払いをする必要があります。
     この点、自宅でも業務が可能な業種の場合には、従業員の体調を踏まえ、自宅での業務を行わせることは可能です。ただし、自宅での業務を行わせた場合には、通常と同様の賃金の支払いが必要です。

    また、いずれの場合でも、従業員の体調を把握するため、日々の体調を報告させるべきです。

Q.新型コロナウイルスの対応のため、特別休暇を導入しようと考えているのですが、どのような点に注意したらよいでしょうか?

A.利用要件や賃金補償に明確にした上で、制度設計をすることが重要です。

  • 【特別の休暇を設けることについて
     有給休暇とは別に特別の休暇を設けること自体は、労働者に不利益を与えるものではないので、会社の判断で行うことができ、就業規則の変更等は必要不可欠なものではありません。ただし、その際の賃金補償や利用要件を定めておかなければ、運用が不明確となり、従業員間に不公平感を与えることにもなりかねませんので、それらの制度設定を行うことが重要と考えます。その際には、それらの条件を従業員に周知することが必要となります。 

  • 【特別休暇取得の要件について
    ①利用条件について
     利用条件としては、発熱、倦怠感などの症状が生じている場合、会社の休業・営業縮小期間に限定する場合などが考えられます。この条件をどうするかについては、テレワークでの勤務が可能かどうか(可能であれば、休暇ではなくテレワーク勤務とする)なども考慮した上で、会社で妥当な範囲を判断することになります。

    ②利用期間について
     利用期間については、明確に定めておく必要があります。新型コロナウィルスの影響がいつまで続くのかは見通しが立ちませんが、制度導入時には、今年1年の時限的な措置であるとしておけばいいと思います(状況に応じて延長することは可能です)。

    ③利用日数について
     利用日数については、利用条件をどう定めるかによります。発熱、倦怠感などの症状がある場合に限定するときは14日としたり、会社の休業期間に限定する場合には当該休業期間とすることが望ましいでしょう。

    ④賃金補償について
     特別休暇を取得した場合の賃金補償は、最低でも平均賃金の100分の60(休業手当の補償率)以上を支給することが必要となります。会社で雇用調整助成金の申請を行う場合には、その要件等を十分検討して、賃金補償率を定めるのが望ましいでしょう。

Q.専門家会議で示された「新しい生活様式」を踏まえた業務とはどのようなものでしょうか?

A.「新しい生活様式」とはテレワークやローテーション勤務、時差出勤、オンラインでの会議、オンラインでの名刺交換、対面での打合せは換気とマスクを着用するといったものです。全てを導入することが難しい業務もあると思いますので、必ずしも上記のみにとらわれず、それぞれの業種でできる限りの感染対策を行っていただくことが重要です。

  • 【テレワーク、時差出勤
     テレワークや時差出勤の場合の具体的な対応については、別のQ&Aを用意していますので、そちらをご覧ください。

  • 【オンライン会議

     オンラインでの会議を可能とする様々なソフトウア(ZoomteamsSkypeなど)がありますので、各企業の業態に合わせたソフトウェアをご利用ください。
     これまで対面式の会議が中心であった企業からすれば、いきなりオンラインでの会議を導入することに抵抗があるかもしれませんが、対面での会議でクラスターが発生してしまった場合には、従業員の健康面の問題のみならず、企業のレピュテーションの問題も発生します。
     今後のポストコロナを見据えた場合、オンラインでの会議は必須と考えられますので、導入について積極的にご検討いただければと思います。
     なお、弊所でも、緊急事態宣言を受け、弊所内・外での打合せ・会議を原則、電話・WEBでの打合せに切り替えましたが、思っていた以上にWEBでの打合せ・会議の使いにくさはありませんでした。

Q.感染拡大を防ぐための勤務時間や勤務形態の柔軟化にはどのようなものがありますか?

A.感染拡大を防ぐため、時差出勤を認めたり、テレワーク等の勤務形態の柔軟化があります。それぞれの方法を導入する手続・留意点は以下のとおりです。           

  • 【時差出勤】
      就業規則に始業、終業時刻の繰り下げ繰り上げを定める規定がある場合、または、個別合意により、始業、終業の時刻を変更することができます。通勤による混雑具合に応じて、労使で十分な協議や試行をするなどして時差通勤を導入することが考えられます。なお、弊所も一部時差出勤を取り入れております。

  • 【テレワーク】
     テレワークと一口に言っても、在宅勤務、サテライトオフィス勤務など様々な種類がありますが、今回は代表的な在宅勤務を取り上げます。
    在宅勤務を取り入れる場合には、大きく①情報管理、②労働時間の管理、③在宅勤務を導入する際の費用の負担の検討が必要になります。
    ・①情報管理
     会社のPCを自宅に持ち帰って業務を行う、私物のPCからクラウド等を利用して業務を行う等様々な方法が考えられますが、いずれの方法を採用するにせよ、セキュリティ対策が必要になります。また、PCやUSBを社外に持ち出す場合には、紛失・盗難等のリスクがあるため、一定の対策が必要になります。
     テレワーク時の秘密情報の管理については、経済産業省知的財産政策室から「テレワーク時における秘密情報管理のポイント(Q&A解説)」も公表されておりますので、ぜひご参照下さい。
    ・②労働時間の管理
     在宅勤務の場合、従業員が出勤していないことから、労働時間の管理を検討しなければなりません。例えば、始業や在籍の確認については、Eメールでの始業報告をさせる、勤怠管理ツールを利用する等の対応が考えられます。
     在宅勤務を導入するにあたって意外に注意が必要なのが時間外、休日・深夜労働等の長時間労働の抑制です。在宅勤務での業務に不慣れなこと、いつでもPCにアクセスできる環境にあること等が相まって、在宅勤務では労働時間が長くなる傾向があるようです。長時間労働により、従業員の方の心身の健康を害してしまうことのないよう、所定労働時間外にPCへのアクセスを禁止する等、長時間労働を抑制する方法を労使で話し合う必要があります。
     ※労働時間の管理については、平成29年1月20日に策定された「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」も参照のこと
    ・③在宅勤務を導入するにあたっての費用負担
     在宅勤務を導入するにあたって、インターネット回線の利用料の負担や、自宅から郵便を送ったり、宅配を利用したりした場合の費用負担も検討が必要です。インターネット回線の利用料については、会社と個人の利用の切り分けが難しいことから、利用料の一部を会社が負担するという例が多いようです。また、郵便物や宅配の費用については、事前に従業員に必要となりそうな現金を渡しておく、やむを得ない出費が発生した場合には都度精算するという方法となると考えられます。
     なお、在宅勤務をするにあたり、従業員に郵便物の費用や情報通信機器等の費用を負担させる場合には、予め就業規則への規定が必要となります。

     以上で記載したようなテレワーク導入に際しての疑問点については、厚労省の「テレワーク導入のための労務管理Q&A」に詳細が記載されています。また、テレワーク導入に際して就業規則の変更する場合には、厚労省の「テレワークモデル就業規則」もご参照ください。
     なお、新たにテレワークを導入した中小企業事業主を支援するため、時間外労働等改善助成金(テレワークコース)も設けられています

     弊所では、テレワーク導入にあたっての就業規則の改定等のご相談も承っておりますので、気軽にご相談ください。

Q.弊社でも、テレワークを導入しようと思います。就業規則等の変更が必要でしょうか?

A.就業規則に定められている必要的記載事項を変更(ex. 従業員にテレワークに要する費用(通信費、光熱水費)を負担させる、始業・終業時刻の変更)がなければ、就業規則の変更は必須ではありません。ただし、テレワークを本格的に導入するということであれば、テレワークに関する規則を就業規則化しておくことをお勧めします。

Q.テレワーク導入に併せて、就業規則を変更しようと思うのですが、どのような点に留意すべきでしょうか?

A.テレワーク導入に併せて、テレワーク勤務を命じることに関する規定、テレワーク勤務用の労働時間を設ける場合には、その労働時間に関する規定、通信費などの負担に関する規定を設ける必要があります。
詳細は、厚労省の「テレワークモデル就業規則」もご参照ください。
 また、就業規則を定める以外にも、自社の状況に合わせて実際の運用にあたり検討すべき点の洗い出しも必要です。
 具体的には、①在宅勤務の利用はどのような運用とするのか(どの部署を対象とするのか、対象者を誰とするのか、利用をするための流れ)、②テレワークの際の勤務をどのようなものとするのか(業務開始・終了をどのように報告するのか、どのような業務を行うのか)、③機器の貸与等(PCや携帯電話の貸与、費用負担、情報管理)などが挙げられます。

Q.テレワークにかかる費用(通信費、光熱水費)については、労働者負担としても問題ないでしょうか。また、通勤手当については、支給しなくてもいいでしょうか?

A.テレワークにかかる費用も、職務上必要な費用ですから、労働者の負担とするためには、就業規則(テレワーク規則)に定める必要があります。また、会社が在宅勤務手当として、費用相当分を(概算)支給する場合にも、就業規則に定める必要があります。
通勤手当については、就業規則(賃金規程)の定め方によりますが、実費支給としている場合には、通勤を要しなくなった日数分減額することも可能となります。
これらの費用、手当については、労働者からの不満を招きやすいので、予め労働者に周知しておくことが望ましいです。。

Q.時差出勤を導入する場合の留意点を教えてください。

A.就業規則に「業務の都合等により、始業・終業時刻を繰り上げ・繰り下げることがある」旨の規定が定められていれば、臨時的な時差出勤を命じることは可能です。ただし、臨時的でなく、恒常的に時差出勤を導入する場合には就業規則の改訂(例「 始業・終業時刻については、会社の事前承認を得た上で、 1 時間単位で最大 3 時間、繰り上げまたは繰り下げることができる。」といった規定の追加)が必要です。
また、時間外労働手当(残業代)や従業員間の公平の問題に注意が必要です。

  • 【時間外労働手当の問題
     労働基準法においては、1日の法定労働時間は8時間以内と定められており、就業規則で始業時刻、終業時刻が定められています。時差出勤とした場合において、残業が生じた場合、どの範囲で時間外手当の支給が必要となるのでしょうか。以下の例を参考に検討していきます。
    【例】
     就業規則で、始業時刻が9時、終業時刻が18時(12時~13時は休憩時間)と定められているが、通勤における感染リスクを鑑み、10時出勤、18時退勤(12~13時は休憩時間)の時差出勤とした。ある日、残業の必要があり、10時出勤、21時退勤(12~13時は休憩時間)となった。
    (法定時間外手当)

     法定労働時間は1日8時間とされていますので、時差出勤が行われている場合も、1日の労働時間が8時間を超えた部分が、時間外労働となり、その時間に対応する時間外労働手当の支給が必要となります。
     そのため、上の例では、8時間を超える部分、19時~21時の2時間分について、法定の時間外労働手当の支給が必要となります。
    (法内残業)
     就業規則において、所定労働時間を超えて勤務した場合に残業手当を支給する旨の条項が設けられていた場合、上の例では、18時~21時が時間外労働となるのでしょうか、それとも19時~21時が時間外労働となるのでしょうか。
     法内残業の取扱いについては、労使間の合意の問題となり、就業規則の解釈の問題となります。今回の就業規則における所定労働時間の解釈としては、1日の労働時間を8時間と定め、それに基づき始業時刻を9時、終業時刻を18時としたものと解釈されるものであり、緊急事態宣言を受けて時差出勤した場合を想定していないものと合理的に解釈できるものといえます。そのため、あくまで1日の労働時間は8時間とする旨の合意があったと解され、時間外労働となるのは19時~21時の2時間と解すべきでしょう。したがって、残業手当の支給は2時間分ということになります。ただし、下記の従業員間の公平という観点からすれば、他の従業員は7時間勤務となっていますので、3時間分の残業手当を支給することが望ましいと考えます。

  • 【従業員間の公平
     
    ある一定の従業員に対して、時差出勤、特に時短勤務を命じている場合、通常勤務の従業員との間に労働時間の差異が生じますので、従業員間で不公平感が生じる可能性があります。そのため、従業員間で待遇の差異が生じないよう、労働時間の調整や、休暇、手当等での配慮を行うことが望ましいと考えます。

Q.新型コロナウイルス感染をおそれて出社しない従業員がいます。どのように対応したらよいでしょうか?

A.従業員に対して出社命令をしても違法ではありませんが、従業員が新型コロナウイルス感染症に感染しないよう、適切な感染防止策を講じた上で、従業員に理解を促すべきと考えます。

  • 【出社命令の可否
     会社は、従業員に対して指揮命令を有しており、合理的な規程に基づく相当な命令である限り、従業員は会社の指揮命令に従う必要があります。そして、従業員がこの指揮命令に反した場合には、懲戒処分などの対象になり得ます。ただし、この指揮命令も、労働契約が予定しているような通常の危険を超え、生命・身体に特別の危険を及ぼすような場合には、当該指揮命令を従業員に強制することはできないと考えられます。
     指揮命令権の限界について、(新型コロナウイルスとは全く状況が違いますが)判断した判例として千代田丸事件(最三小判昭和431224日)があります。この事例は、日韓関係が「異常な緊張状態」にあった中で、会社が従業員に対して海底ケーブルの修理のために朝鮮海峡への出勤を命じたところ、従業員がこれを拒否したため、会社が従業員を解雇したという事案です。この事案において、最高裁は、「労働契約の当事者たる千代田丸乗組員において、その意に反して義務の強制を余儀なくされるものとは断じ難い」として、従業員が会社の指揮命令を拒否したことは違法ではなく、会社が従業員を解雇したことは無効であると判断しました。
     この点、新型コロナウイルス感染症は、適切な感染防止対策をすることにより、その感染リスクを低下させることができるものとも報告されていますし、また、現在(5月20日時点)、岡山県においては、休業要請が出ていない状況にあること等に鑑みると、前記の千代田丸事件ほどの出勤の危険性はないものと考えられます。
     したがって、適切な感染防止対策が取られている職場であれば、従業員に対しての出勤命令は違法ではないと考えます。

  • 【感染防止対策
     
    上記の出勤命令が違法ではないと考えられる前提は、「適切な感染防止対策が採られていること」です。
     この点については、別のQA5月14日の政府、岡山県の発表を受けて、業務を再開させようと思うのですが、注意すべき点はありますか?)で詳細に記載しておりますので、そちらをご確認ください。

Q.当社は、コロナ禍により業績が急激に悪化していることから、人員削減を行う必要があると考えております。どのような方法で進めていけばいいでしょうか?

A.人員削減の方法としては、大きく分けて、労働者自身の意思による自主(合意)退職、会社の判断による(労働者の意思によらない)解雇・雇止めがあります。
解雇・雇止めはその有効性が厳格に判断され、手続面においても困難な点が多く、まずは、希望退職者の募集、退職勧奨による自主(合意)退職を促すことが人員削減のための第一選択ということができます。
また、解雇・雇止めの前提として、解雇回避措置が要求されますので、当該措置の一環としても、希望退職者の募集、退職勧奨手続をとる必要があります。

Q.希望退職者の募集を行うに当たり、注意すべき点はありますでしょうか?

A.希望退職者の募集は、募集の対象となる一定の条件(募集人数、対象者、退職条件、募集期間、優遇措置適用条件)を設定した上で実施されるのが一般的で、条件の内容は、労働協約や公序良俗に反しない限り、会社が自由に定めることができます。
また、使用者は、従業員からの希望退職申出に対し、必ずしも応じる義務はありませんので、「募集条件の優遇措置の適用は会社の承認を要する」旨の条項(いわゆる「逆肩たたき条項」)も、公序良俗に反するものではないと解されています。このような条項を設けて、有能な人材の流出を防ぐことも考えられます。

Q.退職勧奨について、注意すべき点はありますか?

A.退職勧奨に当たっては、従業員自らの意思による退職を促すために、丁寧な説明を行うことはもちろんのこと、本来の退職金との別の加算金や、再就職の支援などのオプションをつける場合もあります。
退職勧奨に合理的な理由がなく、その手段・方法も社会的相当性を超えた執ようなものである場合などには、不法行為に基づく損害賠償責任が発生する可能性がありますので、ご注意ください(下関商業高校事件・最判昭和55年7月10日労判345号20頁等)。

Q.当社は、コロナ禍により業績が急激に悪化していることから、正社員の整理解雇を行わざるを得ません。注意すべき点はありますか?

A.正社員を整理解雇するためには、いわゆる整理解雇の4要件(要素)、すなわち、①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務、③人選の合理性、④手続の適正性が必要であるとされています。
コロナ禍という特殊事情がありますから、上記①の人員削減の必要性については比較的肯定されやすいと思いますが、上記②の回避解雇努力義務のハードルはなお高いと考えられます。雇用調整助成金を始めとする各種補助金・助成金を活用するほか、希望退職者を募るなどして、できる限り解雇を回避する努力が求められています。
また、上記③の人選の合理性については、まずは正社員の解雇に先立って、派遣社員アルバイトパート 定年後再雇用労働者(嘱託社員) 契約社員といった順で解雇を検討しなければなりませんし、客観的かつ合理的な基準に基づく人選を行う必要があります。

Q.整理解雇の具体的な手続を教えてください。

A.整理解雇の4要件(要素)のうち、④手続の適正性とは、解雇に至るまでの手続きの妥当性を意味しており、会社は、労働組合や個々の労働者に対して、整理解雇の必要性やその時期・方法等を説明した上で、誠意を持って協議しなければなりません。
一般的には、従業員説明会を開催し、必要に応じて、個別の労働者との面談を行うなどして、十分な説明を行った上で、実施する必要があります。

Q.当社は、コロナ禍により業績が急激に悪化していることから、有期雇用社員の雇止めを検討しています。注意すべき点はありますか?

A.有期雇用社員については、①過去に反復して更新されている場合や②契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合には、いわゆる雇止め法理が適用され、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない限り、雇止めができないこととされて
います(労働契約法19条)。この合理的理由を判断するに当たっても、(正社員よりはハードルが低いものの)整理解雇の4要件(要素)である①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務、③人選の合理性、④手続の適正性が重要な判断要素になると解されています。
なお、有期雇用社員を契約期間中に解雇するには「やむを得ない事由」が必要であるとされておりますが(労働契約法17条)、この「やむを得ない事由」とは「契約期間満了を待つことなく直ちに解雇を終了せざるを得ない重大な事由」と解されていますから、ほぼ認められません。。

Q.緊急事態宣言とはどのようなものでしょうか?

A.緊急事態宣言とは、新型インフルエンザ等対策特別措置法 32 条(以下、「特措法」といいます。)に基づいて、新型インフルエンザ等(新型コロナウイルスもここに含まれます。)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがある事態が発生したと認めるときに宣言することができるとされています。
 また、緊急事態宣言が発令されると、都道府県知事は、住民に対する外出自粛要請(特措法45条1項)多数の者が利用する施設(ex.学校、社会福祉施設、興行場等)の使用制限等の要請・指示、住民に対する予防接種の実施等一定の措置をとることができるようになります。
 

Q.緊急事態宣言が出されたことを受け、会社を休業しようと思います。これに伴い従業員を休業させようと思うのですが、どのようなことに気を付ければよいでしょうか?

A.従業員に対する休業手当(平均賃金の100分の60)の支払いを検討する必要があります。
 なお、休業手当の支払いは、休業が「不可抗力」である場合には不要とされていますが、仮に休業手当の支給が法的に不要とされる場合であっても、雇用調整助成金等を活用し、従業員への手当を支給するなど、できる限り従業員の生活を保障するよう御検討いただきたいと思います。
※本Q&Aについては、厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業方向け)」4-14-5~問8も併せてご確認下さい。 

Q.雇用関係の助成金にはどのようなものがありますか?

A.企業にとって必要不可欠な経営資源は「ヒト」です。人材なくして企業経営の維持を図ることはできません。
 新型コロナウイルス感染症に伴い休業等を余儀なくされる事業主が、雇用の維持・確保し、事業を存続できるように、以下のような助成金の活用を考えることができます。
 なお、雇用関係の助成金の申請手続でご不明な点がございましたら、弊所に併設する吉備総合社会保険労務士事務所までお問合せいただけましたら、可能な限り支援させていただきます。           

  • 【雇用調整助成金の特例措置】
     雇用調整助成金は、経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度です。
     先行拡充されていた特例措置に加え、クーリング期間要件の撤廃、被保険者期間要件の撤廃が行われました。また、助成対象となった事業主が感染症拡大防止に資するために行う一部従業員の休業や一斉休業も対象となります。従前に比べ、申請手続も相当簡素化されておりますので、ぜひご検討ください。

  • 【新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金
     新型コロナウイルス感染症に関する対応として、小学校等が臨時休業した場合等に、その小学校等に通う子供の保護者である労働者の休職に伴う所得の減少に対応するため、正規・非正規を問わず、労働基準法上の年次有給休暇とは別途、有給の休暇を取得させた企業に対する助成金が創設されました。

  • 【時間外労働等改善助成金(テレワークコース(職場意識改善コース)
     新型コロナウイルスの感染症対策として、テレワークの新規導入や特別休暇の規定整備を行った中小企業事業主を助成するために、要件を簡素化した特例コースが設けられました。
     詳細については不明な部分があるもののかなり使い勝手の良い制度のようですので、ぜひご検討ください。

Q.新型コロナウイルス感染症に関する法律問題について、参考になる資料はありませんか?

A.企業向けのQAとしてまとまっているものとして、厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業方向け)」があります。上記のQAは、主に労務関係で不明な点が出た際に参照いただくことを想定して記載されています。
 また、厚生労働省のホームページ以外にも、東京弁護士会の中小企業法律支援センターに掲載された「新型コロナウイルス対策に関する各種Q&A」も参考になります。このホームページは、労務面でのQA以外にも、資金繰り対応、下請取引関係、契約・取引関係についても、詳細に記載されておりますので、参考にしていただけるかと思います。
 上記に掲載した各ホームページの記載だけではよく分からない、ホームページに掲載されていない点の心配があるといった場合には、気兼ねなく、弊所までご相談ください。なお、弊所では、当面の間、新型コロナウイルスに関連する法律相談については、無料で対応させていただくことを予定しております。